風早小夜子のブログ

本の紹介とか。漫画の紹介とか。考えてることとか。いろいろ。

【第18話】原田マハ『楽園のカンヴァス』大切なものを、誰かに伝えたい人へ。

こんにちは。okapです。

台風に震えながら過ごしたサプライズ休暇も終わろうとしています。

結果として、私の住んでいるあたりは何ともなかったですが、実家のあるあたりが停電・断水で大変そうです。

実家から徒歩5分の祖父母宅は無事なようですが。

 

一刻も早い復旧を祈りつつ、今日は、原田マハ『楽園のカンヴァス』の紹介です。

読もう読もうと思いつつ、手が出てなかった作品なので、うれしい。

 

 

 

 

2000年の倉敷から物語は始まり、1983年の出来事が語られてから、舞台は再び2000年に戻って幕を閉じます。

全体を通して感じるのは、圧倒的な熱量。

登場人物が、そして、原田マハさんが、どれだけルソーを愛しているか。

しみじみと伝わってきます。

そして、その愛が不器用ながら、次の世代にも受け継がれようとしている。

 

 

彼らの生きていた時代、1910年。

その頃生まれた人がいたなら、108歳。

美術史を変えたような人たち、今となっては、重鎮のような顔をして美術館に収まっている彼らが、必死でもがいて新しいものを作り出そうとした時代が、思ったよりも最近だということにも驚きます。

 

 

今、私は、現代アートはよく分からないと思ってしまうけど、ルソーだって、ピカソだって、世界からなかなか理解されなかったんだもんね。名だたる画家も、きちんと評価されたのは、死んでしまってからということもしょっちゅうある。

それでも、その絵に衝撃を受けて、価値を信じて、守って、伝えてきた人がいたからこそ、今の私たちが目にすることができるということが、改めて幸せだと思いました。

 

プーシキン美術館展、行きたいなあ。

【第17話】柚木麻子『ランチのアッコちゃん』疲れて何もする気がおきない人へ。

こんにちは、okapです。

昨日は会社がなくなって浮かれていましたが、風強すぎて恐怖であまり集中できなかった……。

皆さま、お気をつけて。

 

さて、そんななかでも、どうにか読み終わったので、紹介します。

柚木麻子『ランチのアッコちゃん』

「読むとどんどん元気が出るスペシャルビタミン小説!!」と帯に書いていますが、まあその通り!

 

 

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

ランチのアッコちゃん (双葉文庫)

 

 

 

 

冒頭、恋人にフラれた直後の、いかにも自分に自信がない、地味な主人公・三智子からお弁当を恐喝するアッコさん。嘘です、恐喝はしてません。

落ち込んで食欲がなかった三智子のお弁当を食べたアッコさんは、ある提案を持ちかけます。

それは、三智子がお弁当をつくってくることと引き換えに、アッコさんの定番ランチを食べに行くこと!

最初は半信半疑の三智子でしたが、アッコさんのランチコースを巡るたびに、「明日はどんなランチだろう」とワクワクし始めます。

そして、少しずつ、自分の持ち味を発揮し始めるのです。

 

 

なんでもお見通しのアッコさん。

45歳独身。がっちりした肩幅。身長173センチ。黒髪のおかっぱ。一人黙々と仕事に励み、成果を上げる。

カッコよくも、近寄りがたいアッコさんですが、優しくてお節介な一面も垣間見れて、思わずファンになってしまいます。

 

 

私は最近、仕事で疲れ果てた日なんかは、重たい本は読めなくなってきました。

この本は、そんなときに最適です。

軽く読めて、フッと微笑み、いつのまにか元気になっている。

そんな素敵な本です。

本が嫌いでもいいじゃない。

こんにちは、okapです。

明日の仕事もなくなったし、突発的に時間にゆとりがあるので、思うことを書いてみます。

 

 

職業上、たくさんの保護者様と面談をします。内容は、もちろんお子様の学力について。

そのときに、よく聞く嘆きがあります。

 

 

うちの子、ゲームばっかりで全然本を読まなくて〜。

どうしたら読みますかね?

 

 

確かに、お子様の読解力がなかったら、心配になりますよね。せめて本読んでって思いますよね。

小学生に関しては特に、読書量と読解力は比例すると、私も思う。

 

ただ、だからといって、「強制的に本を読ませる」のは断固として反対です。

 

本を読むことを強制すると、それは「させられている」ことになります。

皆が大嫌いな宿題と一緒です。

読書=嫌なこと、という図式が成り立ってしまいます。

そんなの、もったいない!

 

 

少し自分の話をしますね。

私は、大学生のときジャズ研に所属して、トロンボーンを吹いていました。

 

年少の頃からピアノを習い、クラシックも聴いていましたが、そこまで熱中せず。

小学校高学年からB’zにハマり熱狂的に聴いていましたが、自分で演奏しようとは思わず。

 

ジャズは全く聴いたことがなかったものの、高校の先輩がいて存在を知っていたことと、雰囲気で入部。

自分なりに色々考えて、悩んで、練習して、たくさん遊んで、四年間楽しく過ごしました。そこに後悔は全くありません。

 

でも、ひとつだけ苦手だったのは、「ジャズ研民のくせに、そんなこと(ミュージシャン)も知らないの?」「アドリブできないヤツはクソだ」みたいな雰囲気。

 

「できなきゃダメだよ」「しなきゃダメだよ」

こう言われると、キツかったです。

アドリブの勉強をしなきゃいけない。もっとたくさん聴かなきゃいけない。

今は、音楽から離れた生活をしてるし、それでも聴きたくなった音楽は自分で選んで聴くし、半年以上楽器を吹いてないけど、別に吹きたくなったら吹けばいいかと思ってるし、本読んでる方が楽しいし、気にしませんが、当時はなかなか割り切れなかった。

 

そんななか、不思議と前向きに、やってみようかなと思うこともありました。

「できるようになったら超楽しいよ!」「これカッコいいから聴いてみてよ!」

自分がやってて楽しいから勧めたい!

自分が聴いて、ハマったから聴いてみてほしい!

こう言われると、自然と興味がでたんですよね。

結局、私は長続きはしませんでしたが、火をつけてくれる方もいました。

 

 

 

子どもに本を読んでほしい保護者の皆様も、同じなんじゃないかなと思うんです。

本を読むことを押し付けていませんか?

キツイ口調で、読書しないことを責めていませんか?

 

 

それよりは、きっと、

自分が楽しんで読書している姿を見せること。

お子様に興味が出てきたら、図書館や本屋さんに行って、自分で本を選んでもらうこと。そのときに、子どもが選んだ本に対して、口を出さないこと。

 

 こういうことが、大切だと思います。

 

 

そして、自分でも気をつけようと肝に命じます。

こんなブログを書いているのは、読まない人を責めているのではなく、少しでも興味を持ってもらいたいから。

こんなにも、楽しくて、苦しくて、切なくて、豊かな世界があることを知ってほしいから。

少しでも興味が出たときに、羅針盤にしてもらえるように。

 

是非読んでほしいとは言いません。

そのかわり、どんなによかったか、叫ばせてください。

 

 

 

 

【第16話】ほしおさなえ『活版印刷三日月堂 星たちの栞』大切な人にかける言葉を探している人へ。

こんにちは。

下宿先に戻ってきました、okapです。

一人暮らしのことを下宿するって関西の言い方だっけ?まあいいか。

台風の影響で明日が休みになって嬉しいです。

これ幸いとばかりに、実家から本を借りて帰ってきました。

 

紹介するのは、ほしおさなえ活版印刷日月堂

母がおもしろそうだと思って買っておいた本です。私が先に読ませてもらいました。

この方、著作を読むのは初めてになります。

 

 

 

 

 

川越という都市が舞台です。

調べてみると、埼玉にあるんですね。江戸時代の城下町らしく、今でも古い街並みが残っているようです。

そこにある、印刷所のお話です。

 

 

皆さんは、活版印刷ってご存知でしょうか。

私は、聞いたことあるかも、ぐらいでした。

古本屋で古い本を開くと、小さい文字が一つひとつ、くっきりと浮かんでいる、あれですかね。だと思うんですけど。

 

現代の印刷では味わえない、一文字一文字が立ち上がるような存在感。

日月堂を営んでいた祖父の死後、またそこに住むようになった孫の弓子。

最初は、印刷をする気はなかったのですが、依頼されて再開するようになります。

 

小説は、短編集の形式になっています。

 

印刷された文字を通して、様々な人が自分の思いを伝え合う。

直接は言えないことでも、形にすれば、伝えられる。

 

活版印刷で印刷されたショップカードや、名刺を見て、興味をひかれた人がどんどん扉をあけて、手探りで始めた弓子もまた、世界が広がっていきます。

 

 

過去がわたしたちを守ってくれる。そうして、新しい場所に押し出してくれる

 

 

本当にその通りだなあと思います。

しんどいときも、立ち止まったときも、結局は、幸せな過去の思い出がそっと背中を押してくれる。

 

もう一つ、大切な文章があります。

 

たまには、弱音をはくことも必要だな、って

弱さがあるからつながる、ってこともあるじゃないですか。

 

 

強そうに見える人でも、そのなかには何かを抱えている。

それを見せることができたら、少しは救われる。

 

活版印刷を通して、お客さんの心に寄り添ってきた弓子さんですが、お客さんによって救われることもある。

 

素敵なお話でした。

これも続きがあるようですね、また読みます。

 

 

【第15話】小手鞠るい『美しい心臓』美しいものを手にとって、ため息をつきたい人へ。

こんにちは。

ここ数日、あまりの眠たさに更新を断念してました、okapです。

でも、ずっと宿題をサボっているような、もぞもぞ感があったので、ブログ更新が身についてきたような気もします。

 

昨日今日とお休みなので、久しぶり(といってもお盆振り)に実家に帰ってきました。

一人暮らしの今の部屋よりは、今まで買いためた本がぎっしり詰まっているので、本棚を眺めているだけでも幸せです。

母親も本が好きなので、帰るたびに最近読んだおススメの本を教えてくれるのもよき。

 

今日は、大学生の頃に読んで、強烈に印象に残っている小説を紹介します。

小手鞠るい『美しい心臓』

 

 

美しい心臓 (新潮文庫)

美しい心臓 (新潮文庫)

 

 

 

 

願っていたのは、死だった。

死を願いながら、わたしはあの、短い日々を生きた。

 

 

 

冒頭の二行の美しさ。

本屋でたまたま手に取った本の書き出しがこれだったなら、間違いなく買います。実際買いました。

読んでみると、最初の二行だけではないんですよね。

短い小説ではなく、長い長い詩を読んでいるような。

 

 

主人公の女性は、DVをする夫と別居中でありながら、既婚者の男性と恋に落ちます。

世間から隠さないといけない関係であり、男性には当然家族があります。

それらに嫉妬を抱えつつ、一切を見ないように、男性との逢瀬に集中する主人公。

 

そんなある日、男性が仕事の都合で、コスタリカに三週間滞在することになります。

主人公は、男性の「妻」として、見知らぬ土地でのびのびと過ごします。

限られた、幸せな時間。

しかし、帰国してから、些細なきっかけで、少しずつ歯車が狂い始めます。

止まらない狂気と、我に返る出来事。

主人公は別れを決意します。

 

 

 

冒頭とラストの対比があまりにも完璧で、鳥肌が立つほどです。

美しく、完全でありながら、途方もない凄みを感じさせます。

 

言葉の美しさもさることながら、作中の出来事全てに意味があり、支え合っている。どのエピソードを抜いても、物語が完成しない。

全体の構成としても、とても美しく、無駄がありません。

 

 

美しいって何回言うねん!という感じですが、全く本当のことです。

豪奢な工芸品を手にして、思わずため息をつくような気持ちで本を閉じました。

 

将来の選択肢を広げるために勉強しましょうって言うけど、それだけでいいの?

こんにちは。

元上司と飲みに行ってきました、okapです。

今回は、閑話休題として、本の紹介ではなく、最近考えていることを。

 

ブログというものにてんで興味がなかったのですが、今こうして自分でブログを書いています。そのきっかけの一つは、プロブロガーのあんちゃさんです。

彼女は、新卒で入った会社を2年目に辞めて、ブロガーとして独立しています。

ちょうど、私は今、新卒で入った会社の2年目なんですね。

なんとまあ、タイムリーな。

ここでは、彼女に倣って、自分の思うことをそのまま書いてみようと思います。

 

 

 

 

自分のやりたいことって、なんなんだろう。

 

 

 

まだ2年目ではありますが、学習塾に就職した私は、それなりの数の子どもたちに出会いました。

ときには、「この子は何が楽しくて生きているんだろう」と思うぐらい、将来について・志望校について、自分のやりたいことを答えられない子がいます。

 

将来どうしたいの?何がやりたい? 


そう聞かれて、特に何も思い浮かばない。

もしくは、いい学校にいって、いい大学にいって、いい会社に就職すると答える。

 

そんなとき、私はこう答えます。

 特にやりたいことがないなら、いずれ見つかったときのために、選択肢を広げておこう。そのために、勉強がんばろう。

 

 

でも、これでいいんだろうか。

 

 

じゃあ、いつ、その広がった選択肢から、将来を決めるの?

そのときに、何を基準に、それを選ぶの?

 

自分が何をしたいのか考える耐性をつけないまま、決断の場面にきたときに、果たして自分の意志で選択できるんだろうか。

 

 

 

「決めなきゃいけないときになったら、決められるだろう」という意見もあるでしょう。

確かにこれも一理あります。

私は自分が優柔不断だと知っているので、料理店で注文が決まってないのに店員さんを呼んだりします。来たら強制的に決めざるをえないから。

そのとき、「やっぱりあっちにしておけば……」と後悔することもありますが、たいてい出てきた料理を美味しく食べて忘れます。

どうしても気になる場合は、もう一度食べに来たらいいのです。

 

じゃあ、やっぱり、決めなきゃいけないときに、決めたらいいじゃないかと、思うかもしれません。

でも、上記の料理の話は、「食べたいものが複数あって選べない」場合であり、「食べたいものが何もないけど、とりあえず選ばないといけない」状況ではありません。

ま、食べる気分じゃなかったら、お店には行かないか。

 

 

「何もやりたくないけど、生活するために取り敢えず働かないといけない」から、目の前にある選択肢のなかから、一番マシそうなものを選択する。

そして、嫌だなあと思いながら毎日働いて、たまの休みに一息つく。

 

私は、そういう人生は嫌だなあと思うし、子どもたちにも、そうなってほしくはないなあと思います。

どうせ生きるなら、楽しいことだけやって、生きていきたい。

好きなことを仕事にしたい。

どうせできないと諦めるんじゃなくて、まずは、実現できるように、努力したい。

 

 

 

私は今まで、たくさんの将来の夢を思い描いてきました。

うさぎ、ケーキ屋さん、医者、国連職員、作家、小説家、NPO法人で働くこと、カウンセラー……などなど。

しょっちゅう変わるけど、そのたびに、本気でいいなあと思ってきました。

国際関係の仕事に興味があったから、大学の学部は国際系を選びました。

在学中に、教育、それも国内の教育に興味が移ったから、就職先は学習塾にしました。

 

そして今、悩んでいます。

私が本当にやりたいことは、教育なんだろうか。

好きで好きで仕方がないことは、なんだろう。

 

 

本を読むのが好きです。

いつか、自分も小説家になりたいと思ってきました。

このまま、諦めてしまっていいのだろうか。

 

 

一つのところに留まりたくありません。

その日どこに行くか、毎日決められる生活がしたいです。

実現する方法はないだろうか。

 

 

来年あたりに仕事を辞めるような気もします。

それじゃあ、私は、無駄な時間を過ごしたのでしょうか。私の選択は、失敗だったのでしょうか。

 

答えはNOです。

就活していた当時の自分は、ベストな選択をしたと自信を持って言えます。

全てを納得ずくで入った会社だったけど、自分のやりたいことを考え続けていたら、少し違う未来を望むようになっただけです。

自分の心に正直であり続けようとしたから、見えてきたことです。

 

 

文章を書くのが好きです。できれば、これを仕事にしたいです。

そのために、まず第一歩として、ブログを始めました。

 

 

 

どうか、子どもたちが、自分のやりたいことが何か、考え続けられますように。

 

そのために、今の職場にいる限り、子どもたちに質問をし続けます。

人は、聞かれたら、考えるから。

何度も何度も聞くから、そのたびに、少しずつ、考えてほしい。

考えがまとまってなくてもいいから、それを、伝えてほしい。

人は、話すうちに、考えがまとまることもあるから。

 

 

【第14話】上橋菜穂子『狐笛のかなた』誰になんと言われようとも、幸せだ。

こんにちは。

昨日夜更かししすぎて眠いです。okapです。

今日は紹介するだけに留めて、自分はどっぷり読み返さないようにするぞ……!

 

ということで、何度も何度も読んで、ほとんど内容を覚えている小説を紹介します。

上橋菜穂子『狐笛のかなた』(こてきのかなた)

十一月の扉と並んで、私のバイブルです。

 

 

物語は、運命的な出会いから始まります。

初めての任務で手こずり、怪我を負い、猟犬に追い立てられる霊狐の野火。

そこに出くわした少女、小夜は、思わず野火を懐にいれ、走り出します。

とはいえ、猟犬の足と少女の足。小夜は猟犬に追いつかれそうになります。

そこを救ったのが、屋敷にひっそりと匿われる少年・小春丸でした。

 

 

とりあげ女(産婆)の祖母と、里の外れに暮らす小夜。

死にも近い職業である祖母は、里の者とはあまり関わりすぎないように生活しているし、小夜は小夜で、他人の心の思いを聞くことができたので、人混みよりは、すすき野の静けさを好んだ。

 

両親がだれか、なぜ匿われているのかも知らず、屋敷に閉じ込められる小春丸。

周りにいるのは大人ばかり。することといえば、勉強と武術の訓練。

そんな毎日に退屈していた。

 

 

お互いに孤独な二人は、すぐに仲良くなり、夜にこっそり抜け出しては何度も会うようになります。

そして、仲睦まじそうに喋る二人を、遠くから寂しく見守る野火。

主に命じられて人を呪う使い魔の野火は、自分は汚れているからと、二人に触れることはしません。

それでも、野火もまた、二人のことが忘れられず、そっと様子を見に来るのでした。

 

そこから、時は流れ、小夜は市で、自分と母のことを知る女性に出会います。

そして、術をつかう素質のある小夜は、国の権力争いに巻き込まれていきます。

 

それは、小春丸も、野火も同じでした。

幼い日に心を通わせた三人(二人と一匹)が、三者三様の立場で向き合います。

 

そのとき、野火が、小夜が、そして、周りの大人たちが選んだ道はーー。

 

 

この本のテーマは、「幸せ」だと思うんです。

 

小春丸の幸せのために、彼を隠し。そのために、小春丸自身は、孤独になり。

血で血を洗う権力争いだって、元を辿れば、幸せのためだったはず。

でもそのせいで、お互いが不幸になっていく。

幸せって、なんなんだろうと。

 

それに対する一つの答えが、この物語のラストシーンです。

小夜の選んだ道を、小春丸はむごいと言う。

しかし、小夜は、本当に本当に、幸せて仕方がないという笑みを浮かべます。

 

他人からどう思われようが、小夜は自分の選択に満足し、幸せなのです。

 

 

 

泣きたいようなよろこびが、胸にあふれて、小春丸は小夜へ、手をたかくあげて、ふった。

 

 

 

この一文の美しさ。

とても、うつくしい春の景色のなか、この物語は幕を閉じます。

 

 

 

狐笛のかなた(新潮文庫)

狐笛のかなた(新潮文庫)

 

 

追伸:小夜と小春丸が食べてた胡桃餅がおいしそうだったなあ。

           レシピ本まで出るくらい、上橋菜穂子の小説は、食べ物が美味しそうです。