風早小夜子のブログ

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【第14話】上橋菜穂子『狐笛のかなた』誰になんと言われようとも、幸せだ。

こんにちは。

昨日夜更かししすぎて眠いです。okapです。

今日は紹介するだけに留めて、自分はどっぷり読み返さないようにするぞ……!

 

ということで、何度も何度も読んで、ほとんど内容を覚えている小説を紹介します。

上橋菜穂子『狐笛のかなた』(こてきのかなた)

十一月の扉と並んで、私のバイブルです。

 

 

物語は、運命的な出会いから始まります。

初めての任務で手こずり、怪我を負い、猟犬に追い立てられる霊狐の野火。

そこに出くわした少女、小夜は、思わず野火を懐にいれ、走り出します。

とはいえ、猟犬の足と少女の足。小夜は猟犬に追いつかれそうになります。

そこを救ったのが、屋敷にひっそりと匿われる少年・小春丸でした。

 

 

とりあげ女(産婆)の祖母と、里の外れに暮らす小夜。

死にも近い職業である祖母は、里の者とはあまり関わりすぎないように生活しているし、小夜は小夜で、他人の心の思いを聞くことができたので、人混みよりは、すすき野の静けさを好んだ。

 

両親がだれか、なぜ匿われているのかも知らず、屋敷に閉じ込められる小春丸。

周りにいるのは大人ばかり。することといえば、勉強と武術の訓練。

そんな毎日に退屈していた。

 

 

お互いに孤独な二人は、すぐに仲良くなり、夜にこっそり抜け出しては何度も会うようになります。

そして、仲睦まじそうに喋る二人を、遠くから寂しく見守る野火。

主に命じられて人を呪う使い魔の野火は、自分は汚れているからと、二人に触れることはしません。

それでも、野火もまた、二人のことが忘れられず、そっと様子を見に来るのでした。

 

そこから、時は流れ、小夜は市で、自分と母のことを知る女性に出会います。

そして、術をつかう素質のある小夜は、国の権力争いに巻き込まれていきます。

 

それは、小春丸も、野火も同じでした。

幼い日に心を通わせた三人(二人と一匹)が、三者三様の立場で向き合います。

 

そのとき、野火が、小夜が、そして、周りの大人たちが選んだ道はーー。

 

 

この本のテーマは、「幸せ」だと思うんです。

 

小春丸の幸せのために、彼を隠し。そのために、小春丸自身は、孤独になり。

血で血を洗う権力争いだって、元を辿れば、幸せのためだったはず。

でもそのせいで、お互いが不幸になっていく。

幸せって、なんなんだろうと。

 

それに対する一つの答えが、この物語のラストシーンです。

小夜の選んだ道を、小春丸はむごいと言う。

しかし、小夜は、本当に本当に、幸せて仕方がないという笑みを浮かべます。

 

他人からどう思われようが、小夜は自分の選択に満足し、幸せなのです。

 

 

 

泣きたいようなよろこびが、胸にあふれて、小春丸は小夜へ、手をたかくあげて、ふった。

 

 

 

この一文の美しさ。

とても、うつくしい春の景色のなか、この物語は幕を閉じます。

 

 

 

狐笛のかなた(新潮文庫)

狐笛のかなた(新潮文庫)

 

 

追伸:小夜と小春丸が食べてた胡桃餅がおいしそうだったなあ。

           レシピ本まで出るくらい、上橋菜穂子の小説は、食べ物が美味しそうです。