【第15話】小手鞠るい『美しい心臓』美しいものを手にとって、ため息をつきたい人へ。
こんにちは。
ここ数日、あまりの眠たさに更新を断念してました、okapです。
でも、ずっと宿題をサボっているような、もぞもぞ感があったので、ブログ更新が身についてきたような気もします。
昨日今日とお休みなので、久しぶり(といってもお盆振り)に実家に帰ってきました。
一人暮らしの今の部屋よりは、今まで買いためた本がぎっしり詰まっているので、本棚を眺めているだけでも幸せです。
母親も本が好きなので、帰るたびに最近読んだおススメの本を教えてくれるのもよき。
今日は、大学生の頃に読んで、強烈に印象に残っている小説を紹介します。
小手鞠るい『美しい心臓』
願っていたのは、死だった。
死を願いながら、わたしはあの、短い日々を生きた。
冒頭の二行の美しさ。
本屋でたまたま手に取った本の書き出しがこれだったなら、間違いなく買います。実際買いました。
読んでみると、最初の二行だけではないんですよね。
短い小説ではなく、長い長い詩を読んでいるような。
主人公の女性は、DVをする夫と別居中でありながら、既婚者の男性と恋に落ちます。
世間から隠さないといけない関係であり、男性には当然家族があります。
それらに嫉妬を抱えつつ、一切を見ないように、男性との逢瀬に集中する主人公。
そんなある日、男性が仕事の都合で、コスタリカに三週間滞在することになります。
主人公は、男性の「妻」として、見知らぬ土地でのびのびと過ごします。
限られた、幸せな時間。
しかし、帰国してから、些細なきっかけで、少しずつ歯車が狂い始めます。
止まらない狂気と、我に返る出来事。
主人公は別れを決意します。
冒頭とラストの対比があまりにも完璧で、鳥肌が立つほどです。
美しく、完全でありながら、途方もない凄みを感じさせます。
言葉の美しさもさることながら、作中の出来事全てに意味があり、支え合っている。どのエピソードを抜いても、物語が完成しない。
全体の構成としても、とても美しく、無駄がありません。
美しいって何回言うねん!という感じですが、全く本当のことです。
豪奢な工芸品を手にして、思わずため息をつくような気持ちで本を閉じました。