風早小夜子のブログ

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【第4話】柚木麻子『ねじまき片想い』自分の心に正直に。一歩踏み出したい人へ。

こんばんは。okapです。

オカピっていう動物いるよね。別に関係はないです。

 

先ほど『れんげ荘』のブログをアップしたあと直ぐさま読み始めたのが、『ねじまき片想い』です。

 

今日本屋さんで買った本はもう一冊あるんだな〜。

本屋でピンときた本はすぐ買うくせに、割と積ん読にしがちな私にしては、こんなに早く読むのは、割と珍しいです。

 

基本的に、人生から逃避したいんだよね。たぶんね。

本を読んでいるあいだは、その世界に逃げ込むことができます。

それは、たぶん、おもちゃも一緒。

 

 

『ねじまき片想い』の主人公は、富田宝子、28歳。

ガーリーな見た目は、10代に見えるほど。

玩具メーカーの商品企画室で働くエース。

自分の世界観をもち、次々とヒット商品を生み出す一方で、恋愛に関しては、からきしである。

デザイナーの西島に5年も片想いを続ける、「片想いのプロ」

その西島が、困ったことにトラブルに巻き込まれる体質なのだ。

それを察知した宝子は、たちまち探偵に変貌。先回りして解決に導いてしまう。

 

西島に片想いしていることは、社内にはバレバレ。

ルームシェアをしている玲奈には、いつも発破をかけられる。

彼女の言葉が本当にスカッとしており、かっこいい。

もし駄目だったら……と怖気付く宝子に対して、

「行動しない人間は、そういうことを不安がる資格もないんだよ」とぴしゃり。

ただ、そんな言葉を受け取ってもなお、宝子の情熱は、事件解決に向かってしまう。

付き合ってもない男のために奮闘する宝子のことを、玲奈はこう揶揄している。

「完全に自家発電だね。自分でねじまいて自分で走るゼンマイおもちゃって感じ」

 

 

この小説は短編集としても読むことができる。

毎回、宝子が解決のために(その努力が少し明後日の方向を向いていたとしても)奮闘するのはそうなのだが、少しずつ、西島との関係が変わっていく。

本来は自分の世界を持ち、頑固なところもある宝子だが、西島の前ではすっかり大人しくなり、いつもの自分をさらけ出せない。

そこから、一歩だけ、踏み出したところで物語は終了する。

 

 

ブログタイトルにある「自分の心のねじを巻いてくれるのは、自分だけよ」という言葉のほかにも、この物語には、素晴らしい格言が、様々な人間模様が詰まっている。

でてくる登場人物が、脇役に至るまで、なんとも個性的で、立体的で、おもしろいのだ。

 

個人的には、若き西島の言い放った言葉にグッとくる。

商品企画で煮詰まる新人時代の宝子へ向けた言葉だ。

ーー別に全員にウケなくてもいいんじゃないの。

ーーたった一人を思い浮かべて作ればいいんじゃないの〜?例えば君の家族とかさ。万人受けするものより、俺はそういう気持ちの入ったものが好きだな。

 

全ての創作物に通ずる言葉だと思う。

願わくば、このブログも「たった一人」に届きますように。

 

 

ねじまき片想い (創元推理文庫)

ねじまき片想い (創元推理文庫)