【第9話】高楼方子『十一月の扉』少し背伸びしたい中学生へ、懐かしい気持ちを思い出したい大人へ。
こんばんは、okapです。
胃がキリキリと痛いです。拾い食いはしてないんだけどなあ……。
今日紹介する本は、高楼方子『十一月の扉』です。
初めて読んだのがいつなのか、覚えていないぐらい前に読みました。
確か、小学校高学年かな。
そこからずっと、中学生の間も、私のバイブルでした。
文庫本を調べたら、平成18年11月1日発行。
今は、平成30年。ということは、12年前!
微妙に鯖を読みましたかね。小学校と中学校の境目ぐらいですね。まあいいか。
ずいぶんと年季が入ってきましたが、きっと一生そばに置いておくでしょう。
そして、きっちり11月に発行してるんですね。そりゃそうか。
主人公は、中学生の爽子(そうこ)。
ひょんなことから、「十一月荘」という素敵なお家で暮らすことになります。
住人は、老婦人、バリバリキャリアウーマンの建築家、小学1年生の女の子とその母。
そこで、爽子は、のどかな、そして、ちょっぴり背伸びした日々を送ります。
これだけだと、なんだかどこにでもありそうな気がしますが、個人的に爽子がすごいと思うのは、その行動力!
どちらかといえば大人しい女の子ですが、彼女が十一月荘を見つけたきっかけは、家から双眼鏡でのぞいて偶然見つけたから。その外装にすっかり魅せられてしまった爽子は、休みの日にわざわざ自転車で向かいます。どうしても、行ってみたいと思ったから。
その日は、家まで行って、庭先で少し老婦人(閑さん)と立ち話をしただけです。
しかし、話はここから。
家族から、転勤が決まったと言われて、爽子が選択したのは、「十一月荘」に二学期の終わりまで、住まわしてもらうことでした。
素敵なお家で!
自分の部屋を与えられてシェアハウス!
うらやましい!!!
そこで、爽子は、家族と離れて暮らし始めます。
出会うはずがなかった人と、共に暮らす不思議。
タイムリミットが決まっている、かけがえのない時間。
特別なことをしようと、爽子は、物語を書き始めます。
身の回りの、そして、小学1年生の女の子(るみちゃん)のぬいぐるみを登場人物に見立てた物語です。
爽子は、それをるみちゃんに読んで聞かせます。
そして、もう一人の読者が、ひとつ年上の男の子、耿介(こうすけ)。
涼しげな目元の、毅然とした少年。なおかつ、文学にも親しみ、爽子の物語を「たのしい川べ」まで「巨人族の足で一歩」と評します。
なんとまあ、素敵な少年や。
(ちなみに私は「たのしい川べ」を読んだことがないので、本当に一歩なのかは判断しかねます。実家にあった気がするし、探してみようかな)
案の定、私はこの作品も、「爽子は私だ」と思いながら読んでいました。
だって、身に覚えのある感情が、そっくりそのまま出てくるんだもの。
とくにお気に入りなのが、物語終盤の、この部分です。
ああ、どんなにどんなに見たかった姿。いつかどこかでこの曲を聴いたなら、私はきっと必ず、この姿を、この横顔を、思い出すだろう、おばあさんになっても……。
なんて、うつくしい文章でしょう。
何度読み返しても、覚えてしまっていても、ここを読むたびに、心臓をギュッと鷲掴みにされます。
この本を読んで以降、私は、たびたびこういう光景に出会いました。
ピアノはずっと習っていましたし、高校からはトロンボーンも吹いていたので、尚更かもしれません。
曲に紐付いて、思い起こされる思い出がいくつもある。
そのたびに、当時の感情まで、ありありと思い出す。
幸せな時間だったなあと、今になって思います。
一昨日と、昨日と、山野ビッグバンドジャズコンテストだったのですね。
あのとき演奏した曲の数々、抱えていた思い、あたたかくてアホな思い出たち。
心が少し、苦しくなります。
なぜでしょうね。幸せな思い出なのにね。